急性副鼻腔炎に用いられる抗菌薬
急性副鼻腔炎の抗菌薬治療
抗菌薬治療において選択の根拠となる情報として成人の急性副鼻腔炎の起炎菌の頻度、それぞれの菌種における耐性株の頻度、自然に改善する比率が重要とされています。
副鼻腔炎は研究により、細菌学的な治癒率を比較することで、抗菌治癒薬の有効性が示されています。除菌できれば耐性菌出現の確率は低下することから、抗菌薬の第一選択は殺菌力が強いペニシリンとされています。
副鼻腔炎の代表的な起炎菌
小児 | 成人 | |
---|---|---|
肺炎球菌 | 約30% | 約30% |
インフルエンザ菌 | 約40% | 約20% |
モラクセラ・カタラーリス | 約20% | 約6% |
その他の細菌 | 約10% | 約44% |
これらの細菌は耐性化が急速に進んでおり、肺炎球菌では60%~90%、インフルエンザ菌では25%~50%、モラクセラ・カタラーリスでは95%が薬剤耐性菌となっており、急性副鼻腔炎の治療を行なう際に、これらの耐性菌の頻度と抗菌薬の感受性を念頭に置いて治療選択されます。
適切な抗菌薬を十分な量で投与すれば、副鼻腔の細菌を減少、あるいは消失させる上で高い有効性が得られます。しかし、抗菌スペクトラムが十分でないか、投与量が不十分であればそのような有効性は得られません。
成人の急性副鼻腔炎対する抗菌薬治療
急性副鼻腔炎の起炎菌を検索することが原則ですが、日常臨床においてすべての病例に対し細菌検査を行なうのは難しいことから、抗菌薬選択は感染部位において最も考えられる起炎菌を標的として投与する経験的な治療がおこなわれます。
この際に、症状及び鼻内所見による重症度(軽症か中等症以上)の診断と耐性菌、難治性のリスクファクターの情報が有用とされています。すなわち、下記のいずれかの条件を有している場合、難治化しやすい耐性菌感染症として治療することが望ましいとされます。
- 65才以上の高齢者
- 慢性肺疾患・腎疾患・糖尿病などの基礎疾患を有している
- 感染を繰り返している
- 1ヶ月以内に抗菌薬の投与を受けている
成人における急性副鼻腔炎に対する抗菌薬治療は、重症度、耐性菌あるいは耐性菌リスクファクターの有無により、以下のような選択が推奨されます。
「軽症・耐性菌(-)または耐性菌リスクファクターなし」
アモキシシリンの常用量が第一選択と考えられます。セフジトレンやセフカペンの常用量も有効と考えられます。ペニシリンアレルギー患者に対しては、マクロライド系抗菌薬を用いられます。
「軽症・耐性菌(+)または耐性菌リスクファクターあり」
「中等症以上・耐性菌(-)または耐性菌リスクファクターなし」
アモキシシリンの高用量あるいはアモキシシリン・クラブロン酸合剤の常用量が推奨されます。レボフロキサシン、ガチフロキサシンなどのキノロン系抗菌薬も有効性が高い。セフジトレンやセフカペンを使用する場合は増量投与が望ましいとされます。
「中等症以上・耐性菌(+)または耐性菌リスクファクターあり」
レボフロキサシン、ガチフロキサシンなどのキノロン系抗菌薬あるいはアモキシシリン・クラブロン酸合剤の高用量が推奨されています。キノロン系抗菌薬の抗菌活性は用量依存性があるので、投与回数ではなく1回の投与量を多くすることが重要とされています。
「経口抗菌薬治療無効例」
注射薬を使用します。アンピシリンやセフトリアキソンなどが推奨されています。セフトリアキソンは半減期が長く、1日1回の投与で済むため外来的な注射抗菌治療が可能です。肺炎球菌による重症副鼻腔炎に対しては、カルバペネム系抗菌薬の有効性が高い。
「急性副鼻腔炎反復例」
初回急性感染とどうようの治療を行なう。このような患者には、解剖的異常、異物、歯性などの特殊な危険因子を有するかどうかを検討しなければならない。
小児の急性副鼻腔炎に対する抗菌薬治療
小児における急性副鼻腔炎に対する抗菌薬の有効性については、多くのエビデンス(証拠や検証、臨床結果)があります。
臨床的、画像診断状も急性細菌性副鼻腔炎と診断された小児の治療で、抗菌薬治療とプラセボ群で比較した研究では、抗菌薬治療を行った小児のほうがプラセボ群より早く治癒していた研究結果があります。
プラセボとは、実際には効果のない薬(偽薬)を与え、それを対照薬として、被験薬との効果を比較する方法で用いられる「偽薬」のことです。
プラセボ群とは、試験薬と区別のつかないようにしたものを摂取させたグループのこと。試験で得られた結果が、試験薬によるものなのかどうかを明らかにするために用いられます。
治療3日目には抗菌薬を投与された小児の83%が治癒・改善しており、これらに対してプラセボ群では51%であった。そして治療10日目には抗菌薬治療をうけた小児の79%が治癒もしくは改善しており、プラセボ群は60%であった。
約50%~60%の小児が抗菌薬を使用することなく除々に改善しましたが、20%~30%は適切な抗菌薬を投与された小児にくらべて実際には改善が遅延している報告もあります。
小児の急性副鼻腔炎の治療選択において、症状および鼻内所見による重症度の診断と難治化・耐性菌のリスクファクターの情報が有用であるとされています。すなわち、下記のいずれかの条件を有している場合には、鼻咽腔に薬剤耐性菌が検出される頻度が高い報告もあり、薬剤耐性菌による副鼻腔炎の可能性が高いとされます。
- 2歳未満の乳幼児
- 集団保育児
- 感染を繰り返している
- 1ヶ月以内に抗菌薬の投与をうけている
したがって小児急性副鼻腔炎に対する抗菌薬治療は、重症度・耐性菌あるいは耐性菌リスクファクターの有無により、以下のような選択が推奨されます。
「軽症・耐性菌(-)または耐性菌リスクファクターなし」
アモキシシリンの常用量が第一選択と考えられます。セフジトレン、セフカペンの常用量も有効と考えられます。ペニシリンアレルギー患者にたいしてはマクロライド系抗菌薬を用います。
「軽症・耐性菌(+)耐性菌リスクファクターあり」
「中等症以上・耐性菌(-)耐性菌リスクファクターなし」
アモキシシリンの高用量あるいはアモキシシリン・クラブロン酸合剤の高用量が推奨されています。セフジトレンやセフカペンの高用量も有効性が期待できます。しかし、耐性肺炎球菌に対してはマクロライド系抗菌薬やミノマイシンの有効性は低いとされています。
「経口抗菌薬治療無効例」
経口抗菌薬で効果が現れない場合、注射薬を使用します。アンピシリン、セフトリアキソンなどが推奨されています。肺炎球菌による重症度の副鼻腔炎に対しては、カルバペネム系抗菌薬の有効性が高いとされます。
「急性副鼻腔炎反復例」
初回急性感染と同様の治療を行なうべきとされています。この場合、起炎菌に対する低免疫能などの宿主の要因も検討しなければなりません。